ABC音楽振興会ニュース最終号より

対談

対談 25回を振り返って 伊藤京子(審査委員長)、藤田由之(審査副委員長)

1991年9月21日の第1回新人コンサートから「音楽家の発掘・育成」のために行ってきたオーディション事業の幕を第25回で下ろすことになりました。審査に携わってくださったお2人に、まずは、現在のお気持ちから伺えますか。

写真:伊藤京子(審査委員長)
  • 伊藤

    どうしてこんな大事な仕事が終わってしまうのか、情けないし、悲しいし、腹も立つし……日本では芸術部門がどんどん軽視されていっているような気がして、本当に悔しい気持ちでいっぱいです。

  • 藤田

    ABC朝日放送は、1956年に近衛秀麿率いる「近衛管弦楽団」を引き取って専属の「ABC交響楽団」を立ち上げるなど、音楽にも非常に力を入れておられ、創業30周年記念事業としてザ・シンフォニーホールも建設し、事業の一環として創設されたABC音楽財団が始めたこのオーディションの終着点を迎え、残念というほかありません。

  • 伊藤

    当初の審査委員長・安川加壽子先生が体調を崩され、第8回から私がその重要な役を仰せつかったのですが、回を重ねるたびにレベルが上がり、若くて才能溢れる音楽家を発掘して、世界の音楽界に送り出してきました。その功績はとても大きいと思います。第1回のフレッシュ・コンサートに出演されたソプラノの欄 和美さんの迫力ある歌いっぷりは今でも覚えています。

  • 藤田

    2回目から外国人も参加されました。後には声楽、ピアノ、ヴァイオリンの3部門に固定されましたが、第5回にヴィオラとチェロの募集があり、ヴィオラの菊地 崇さんは目が不自由で盲導犬と共に出演されたのが印象に残っています。チェロの林 裕さんは大阪フィルハーモニー交響楽団の首席チェロ奏者を経て、世に埋もれているチェロの作品を発掘・収集しながら、ソリストとして精力的に発表の場を持ち、現在はいずみシンフォニエッタ大阪のメンバーとしても活動されています。

写真:藤田由之(審査副委員長)
  • 伊藤

    協演のチャンスがなかった方でも、実力をつけて活躍している方がたくさんいらっしゃる。第3回新人コンサートに出演のソプラノの飯田みち代さんは、日生劇場50周年記念特別公演の出演が決まり、「メディア」に主演され、今では東京二期会員として、国内外で高い評価を受けています。同じ東京二期会所属で第6回に出演されたソプラノの並河寿美さんもその一人。新人コンサートの後、私の所にレッスンに来られ、音程が下がりがちでしたが、自分の耳と心の両方で感じ取らないと直りませんよと言って差し上げてから、急に伸びて、今やオペラなどで主役級の座を得ています。第8回の最優秀だったテノールの松本薫平さんも関西二期会で主役を張り、神戸女学院大学の准教授になっていますね。

  • 藤田

    第2回の最優秀者で、ピアノの審査委員の佐々由佳里先生も神戸女学院大学音楽学部教授。同じ回のヴァイオリンは優秀でした。その一人、玉井菜採さんはプラハの春国際音楽コンクールで優勝し、現在、東京藝術大学の准教授です。第3回のピアノ部門の最優秀者・芹澤佳司さんは大阪音楽大学教授で、夫人の文美さんが第5回新人コンサート出演者。このオーディションの卒業生同士の初カップルで、デュオ・リサイタルを活発にされています。今や大阪フィルの首席コンサートマスターで、第4回ヴァイオリンの最優秀者・田野倉雅秋さんと、第9回ピアノの最優秀者・澤田智子さんは、第2回のホーム・カミング・コンサートで私がデュオに組み合わせたのが縁で結婚にまで発展したと聞いています。

  • 伊藤

    他にカップルで活躍していらっしゃる卒業生といえば、第6回出演者の藤井隆史さんと第13回の白水芳枝さんがピアノ・デュオで。第24回出演のバリトン清水勇磨さんと、その時伴奏を務めていた夫人の藤川志保さんは第7回の卒業生でしょ。

  • 藤田

    藤川さんと同じ回の卒業生でヴァイオリンの日下紗矢子さんは2008年からベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の第1コンサートマスターに。第11回のヴァイオリンの最優秀で、当時14歳の木嶋真優さんは今や世界的な大スターになっています。

  • 伊藤

    スターといえば、東京二期会に所属して大活躍中のバリトン桝 貴志さんは第18回の卒業生。よく勉強していらして、今でも私の所にレッスンに来られます。

写真:伊藤京子(審査委員長)と藤田由之(審査副委員長)

その他にも、挙げたい方はたくさんいらっしゃるのですが、残念ながら紙面が足りません。最後、お2人に、卒業生に贈る言葉を頂いて締めとさせていただきます。

  • 伊藤

    テクニックは無論のこと、楽譜の裏側をしっかり掴み取って歌って欲しいですね。大きな声、小さな声、クレッシェンド、ディミヌエンドと指示が何故そこにあるのか、感情の濃淡をどう表現すればいいか考えて!そして声だけでなく、自分のキャラクターを“目”でアピールし、ドラマティックにできる歌い手になって頂きたい!生きた華やかさのある音楽家になって欲しいですね。

  • 藤田

    いつも申し上げていることではありますが、音楽家になるには音楽の勉強をするのもテクニックを持っていることも当然のこと、その上で、ひとりの人間としてどんなことでも対応できることが大切で、幅広く、深い知識と教養を身につけ、あらゆる方面に興味を注ぎ、それぞれの世界にも通用し、通暁する音楽家になって頂きたいと思います。

写真:伊藤京子(審査委員長)と藤田由之(審査副委員長)

今日は長時間にわたって、ありがとうございました。

過去の出場者からのメッセージ

  • 写真:芹澤 佳司さん

    芹澤 佳司さん(ピアノ)大阪音楽大学教授
    第3回フレッシュ・コンサート出演
    1993年6月、東京藝大1年の時に出演し、予選はプロコフィエフの第7番を演奏してやりきった感がありましたね。コンチェルトの演奏中には自分の世界に入り込み、オーケストラの音が聴こえなくなり、指揮者の外山雄三先生に「聴け!」と叱られたことが、今でもよぎることがあります(笑)関西に来たのはこのオーディションの本番が初めてで、まさかこの大阪で教鞭に立つことになるとは思ってもいませんでした。1999年から早18年、昔の教え子だった蓑田莉奈さんが第23回で私と同じ曲を演奏したのも感慨深いですね。
  • 写真:田野倉 雅秋さん

    田野倉 雅秋さん(ヴァイオリン)大阪フィル首席コンサートマスター
    第4回フレッシュ・コンサート出演
    初めてザ・シンフォニーホールの舞台で弾いた時、すぐにホールの響きが好きになりました。オーケストラと協奏曲を弾く機会も生まれて初めてで、あれから20余年、そのお蔭で今があると思っていますし、その時お世話になった人々に支えられて演奏活動をさせて頂いています。あの時、確かにひとつの目標に向かって進んでいました。これからもその熱い気持ちを絶やすことなく、皆様へ音楽を届けてまいりたいと思います。
  • 写真:並河 寿美さん

    並河 寿美さん(ソプラノ)東京二期会会員
    第6回新人コンサート出演
    学生時代からオーディションを知っていたのですが、TVで放送されるのを見て、凄い方ばかりなので簡単に挑んではいけない場所だと思っていました。本番ではたくさんのお客さんを前にして素晴らしいホールの舞台に立ち、心臓が飛び出すかと思うほどでしたが、緊張感を楽しむことができた最初の経験だったかもしれません。大御所の先生方にアドバイスも頂戴し、大きな糧となっています。オーディションの出身として誇りに思っています。
  • 写真:日下 紗矢子さん

    日下 紗矢子さん(ヴァイオリン)ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団第1コンサートマスター
    第7回フレッシュ・コンサート出演
    高校3年生の時にオーディションに出演し、最終的にオーケストラをバックに憧れのザ・シンフォニーホールで演奏したあの時の緊張感と高揚感を今でも忘れることができません。その後も、指揮の外山先生を始め審査委員の先生方からチャンスを頂き、関わった方々の応援のお蔭で私の音楽人生が始まりました。これからも皆さんへの感謝の気持ちを忘れずに、いつまでも音楽と真剣に向き合って生きていきたいと思います。
  • 写真:松本 薫平さん

    松本 薫平さん(テノール)神戸女学院大学准教授
    第8回フレッシュ・コンサート出演
    憧れのザ・シンフォニーホールで一流のオーケストラと一緒に歌えたらと応募をし、その夢が叶ったのですが、いざ本番で舞台に立つと頭が真っ白になり、歌詞を間違えてしまいました。今となってはいい経験となり、音楽の作り方を指揮者の外山雄三先生やオーケストラの方々に教えて頂いたことが、後々まで生かされています。このオーディションに私たちが育てて貰ったことに対する感謝でいっぱいです。ぜひ復活することを願っています。
  • 写真:澤田 智子さん

    澤田 智子さん(ピアノ)第9回フレッシュ・コンサート出演
    大阪育ちの私にとって、ザ・シンフォニーホールは有名な方の演奏を聴きに行く特別な場所で、その舞台に立てるだけでも格別でしたし、1つの曲を長い期間をかけて取り組むことを始め、すべてが初めての経験でした。新人コンサート、フレッシュ・コンサートによって、その後の歩む人生の勇気を頂き、ホーム・カミング・コンサートで再び帰る場所を作って下さったABC音楽振興会の皆様の温かさも忘れられません。改めて感謝を申し上げます。
  • 写真:木嶋 真優さん

    木嶋 真優さん(ヴァイオリン)第11回フレッシュ・コンサート出演
    小さいころから憧れていたオーディションの出場資格ができた14歳に参加して、グラズノフのコンチェルトを演奏したのですが、新人コンサートでの演奏が納得できず、もう一度チャンスを与えて頂けたら必ずいい演奏をしますと宣言したのを鮮烈に覚えています。数年前に同じ曲を弾く機会があり、15年前に集中してやった指の感覚やフレージングなどが体の一部となっていて、その経験が何十年後の肥やしになっていたことを実感しました。
  • 写真:桝 貴志さん

    桝 貴志さん(バリトン)東京二期会会員
    第18回フレッシュ・コンサート出演
    様々なコンクールを受けてきましたが、最終的に、1の会場ザ・シンフォニーホールで一流の大阪フィルハーモニー交響楽団をバックに歌うことができ、TVの撮影隊に密着取材され、インタービューや演奏まで放送され、これ以上のない素晴らしい経験をさせて頂き、一生の糧になると思います。その上、伊藤京子先生とのご縁ができ、以来、ご自宅にレッスンに伺っています。これからも、このオーディションの卒業生として頑張っていきます。

ABCホーム・カミング・コンサート

「ABCホーム・カミング・コンサート」は夢の初舞台にあがった「新人たち」が大きく羽ばたいて母校に帰ってくるいわゆる「ホーム・カミング」であり、日本のみならず海外でも活躍している第一線級の卒業生たちによるガラコンサートです。3回開催されました。写真:2000年 第1回 ABCホーム・カミング・コンサート、2011年 第3回 ABCホーム・カミング・コンサート、2004年 第2回 ABCホーム・カミング・コンサート

ご挨拶

ABC音楽振興会は、前身であるABC音楽振興財団の事業を引き継ぎ、NPO法人として活動を続けて参りました。その主な内容は、若手音楽家の発掘・育成と音楽文化の向上に寄与することであります。
振り返りますと、1991年3月の第1回ABC新人コンサート・オーディション開始以来、数多くの若手音楽家の皆さんの 発掘、そして発表の場として「新人コンサート」「フレッシュ・コンサート」「りそなクラシック・バンク」(大阪)「イデア・フレッシュ・コンサート」(東京)などを毎年開催して参りました。
爾来四半世紀が過ぎ、オーディションは25回を数えました。応募いただきましたときは新人・若手でした音楽家の 皆さんの中には、日本を飛び出し活躍の場を世界に拡げられた方、あるいは、音楽を志す学生や若手を指導する音楽大学の重鎮になられた方もいらっしゃいます。
この状況を鑑みますと、皆さまとともに続けて参りました私たちの事業も一定の成果を得ることができたのではないかと感じております。

これまでお寄せいただきました皆様のご厚情にあつく御礼申し上げます。
とりわけ最後まで当ABC音楽振興会の活動を支えてくださいました正会員、賛助会員の法人・個人の皆様、そして 温かい目で応援をして下さった多くの音楽ファンの皆様に、深く深く感謝し、心より御礼を申し上げます。

  • 写真:和田 省一
  • NPO法人 ABC音楽振興会
    理事長 和田 省一
ABC音楽振興会ニュース最終号
ABC音楽振興会ニュース最終号
わずかながら在庫がございます。
ご希望の方は、封筒に120円切手を同封の上、あなたの住所・氏名・郵便番号を明記し、封筒の表に「振興会ニュース希望」と朱書きして、下記宛先にご送付ください。

〒553-0003
大阪市福島区福島1-3-9 abcd堂島ビル5階
ABC音楽振興会 宛

※おひとり様1冊までとさせていただきます。
※在庫が無くなり次第、終了いたします。

ページ上部へ